大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 平成4年(行ウ)21号 判決

千葉県市原市迎田二八八番地

原告

佐久間要一

右訴訟代理人弁護士

石塚英一

山田次郎

千葉市中央区蘇我町一丁目五六六番地の一

被告

千葉南税務署長 石川恵宥

右指定代理人

小島勝

矢澤敬幸

田部井敏雄

高梨六郎

小田切浩

柏倉幸夫

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し平成二年五月二九日付けでした被相続人佐久間周次に係る相続税の更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件通知処分の経緯等

(一) 原告の父佐久間周次(以下「周次」という。)は、昭和六三年一月一二日に死亡し、原告がその財産一切を相続した(周次の法定相続人は、その子である原告及び鈴木むつの二名であったが鈴木むつは相続放棄をしたため、原告が単独で相続した。以下「本件相続」という。)。

(二) 別表一記載のとおり、原告は、昭和六三年七月七日、本件相続税について課税価格を二億九七八七万一〇〇〇円、税額を一億一七九二万八五〇〇円として申告をし、次いで、平成元年一月一八日、課税価格を二億九七五五万九〇〇〇円、税額を九〇三七万九〇〇〇円とする旨の更正の請求をしたところ、被告は、同年一月二四日付けで右更正の請求を認めて原告の請求どおり減額の更正処分をした。

さらに、原告は、同年七月一一日、相続により取得した土地の評価額が高すぎると考え、課税価格を二億三二八八万九〇〇〇円、税額を五九一九万九六〇〇円とする再度の更正の請求をしたところ、被告は、平成二年五月二九日付けで更正をすべき理由がない旨の通知処分をした(以下「本件通知処分」という。)。

(三) そこで、原告は、平成二年七月二七日、本件通知処分について、被告に対して異議申立てをしたが、被告は、同年一一月一六日付けで右異議申立てを棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、同年一二月一四日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、同所長は、平成四年五月二六日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

2  本件通知処分の違法性

本件通知処分は、原告が相続により取得した土地の評価につき憲法一四条、相続税法二二条に違反するものであり、その結果課税価格を過大に認定したものであって、違法である。

よって、原告は、本件通知処分の取消しを求める。

二  請求の原因に対する被告の認否

請求の原因1(本件通知処分の経緯等)の事実は認める。本件通知処分の経緯等の詳細は、別表一のとおりである。

三  被告の主張

被告の主張する本件通知処分の根拠及び適法性は、以下のとおりである。

1  本件通知処分の根拠

(一) 課税価格の合計額 三億〇〇五四万三〇〇〇円

右金額は、後記(1)の相続により取得した財産の総額から、後記(2)の控除すべき債務の総額を控除した後の金額(国税通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数切捨て後のもの)である。

(1) 相続により取得した財産の総額 三億〇二四五万六六九三円

右金額は、原告が本件相続により取得した財産の総額であって、その内訳は次のとおりである。

ア 土地の価額 三億〇一三二万四一一三円

右金額の内訳は、別表二の一ないし四の順号1ないし77(以下「本件相続により取得した各土地」という。)である。

イ 家屋の価額 三三万四八五七円

右金額の内訳は、別表二の四の順号79ないし83である。

ウ 現金預貯金等の価額 三二万一三一八円

右金額の内訳は、別表二の四の順号85及び86である。

エ 家庭用財産の価額 五万〇〇〇〇円

右金額の内訳は、別表二の四の順号88である。

オ その他の財産の価額 四二万六四〇五円

右金額の内訳は、別表二の四の順号90である。

(2) 控除すべき債務の総額 一九一万三〇七〇円

右金額は、相続税法一三条及び一四条(平成三年法律第六九号による改正前のもの)の規定に基づき、原告が相続により取得した財産から控除すべき債務の総額であって、その内訳は、別表二の五の順号93及び94である。

(二) 原告の納付すべき税額 九一八七万一〇〇〇円

右金額は、相続税法一六条(平成四年法律第一六号による改正前のもの)に基づき、前記(一)の相続税の課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額を差し引いた金額を周次の法定相続人二名が民法九〇〇条及び九〇一条による相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額(一〇〇〇円未満を切り捨てた金額)に相続税法一六条に定める税率を適用して計算し、その算出されたそれぞれの金額の合計額に原告の取得割合(一・〇〇)を乗じて計算した金額である。

2  本件通知処分の適法性

右のとおり、原告が納付すべき相続税額は九一八七万一〇〇〇円となるところ、本件通知処分の基となった平成元年一月二四日付更正処分に係る原告の納付すべき相続税額は九〇三七万九〇〇〇円であって、右金額の範囲内であるから、本件通知処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  本件通知処分の根拠について

(一) 課税価格について

(1) 相続により取得した財産の価額について

相続により取得した財産の価額については、土地のうち別表二の一ないし三の順号4ないし38、48ないし69の各土地(市原市迎田のうち飛地を除く地域(以下「迎田本体」という。)に属する農地及び山林。別紙図面一参照。)の価額は争うが、その他の土地及び他の財産の価額は認める。

原告が迎田本体に属する右各土地の価額を争うのは、右各土地のいわゆる評価倍率を争う趣旨であり、原告の主張する価額は、別表二の一ないし三の「元・7・11付け更正請求の額」の欄記載のとおりである。

(2) 控除すべき債務の総額について

被告の主張のとおりである。

(二) 原告の納付すべき税額について

被告の主張額を争う。原告の主張する税額は再度の更正請求のとおりである。

2  本件通知処分の適法性について

被告の主張三2の主張は争う。

五  本件相続財産の土地の評価についての被告の主張

以上によると、本件の争点は、原告が相続により取得した財産のうち別表二の一ないし三の順号4ないし38、48ないし69の各土地(迎田本体の農地及び山林)の価額の点であり、主としてその評価倍率の点である。

そこで、以下において、本件相続により取得した各土地の評価について主張する。

1  相続財産の土地の評価について

(一) 相続財産の価額の意義及び評価

相続税法二二条は、相続に因り取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価するものと規定している。そして、右時価の具体的な算定については、国税庁長官が各国税局長あてに発した「相続税財産評価に関する基本通達」(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達(平成三年一二月一八日付け課評二-四、課資一-六による改正前のもの)。以下「評価通達」という。)及び毎年各国税局長が定める相続税評価基準(以下「評価基準」という。実際には評価倍率表及び路線価額図の形で公表されている。)に基づき行っているところであり、本件相続により取得した各土地の評価についても、右評価通達及び評価基準に基づき評価することになる。

(二) 土地の具体的評価方法

評価通達及び評価基準によると、本件相続により取得した各土地のうち、争点とされているもの(純農地及び純山林)については、固定資産課税評価額に一定の倍率(以下「評価倍率」という。)を乗じて算出する方法(以下「倍率方式」という。)によって評価されることとなる。

ところで、純農地及び純山林の評価倍率は、地勢、土性(土層)、水利(農林産物の搬出の便)等の状況の類似する地域ごとに、売買実例価額や精通者意見価格等を基にして国税局長が定めることとされている(評価通達三七項、四七項)。したがって、評価が適正になされるためには、評価倍率自体が合理性を有していると同時に、土地の状況が類似する地域の決め方が合理性を有していることが必要である。

(三) 評価倍率を大字ごとに設定することの合理性

ところで、国税局長は、右地域ごとの評価倍率を評価倍率表の形で定め、公表しているが、倍率表においては、町又は大字ごとに倍率を定めている。

倍率表において大字ごとに倍率が定められているのは、それが市町村という行政区画内の一定のまとまった地域であり、かつ、歴史的にみても大字が道路、河川、水路、山の尾根、谷、崖、湖沼等で区画されている場合が多く、このため土地の地目毎の利用形態は勿論のこと、地勢、土性、土層、水利、農林産物の搬出の便等の状況も比較的似通っており、土地の価額も類似していると考えられるからである。しかも、大字の単位をさらに細分化するとすれば、評価倍率を定めるための事務量、経費等の膨大な負担増加を招くだけでなく、細分化の追及は、評価倍率を算定する根拠となる売買実例の希薄化を招来し、結果として課税の不安定、ひいては納税者の不利益という好ましからざる事態に立ち至る。さらに、大字単位の原則の例外を広範に認めることことも同様の事態を招くおそれがある。

全国の各国税局等においても、一部の例外を除いて、原則として、大字等ごとに評価倍率を設定する方法を採用している。それは、上記の理由のほか、納税者にとっても風土、慣習、行政上の地域区分等から最もなじみやすく、かつ、経済性、技術面等をも含めて総合的に判断した場合、この方法が最も合理性を有するからである。したがって、大字単位の原則について例外を認める場合にどの程度の個別事情を考慮すべきかは、評価精度の向上と事務量及び徴税経費の抑制、売買実例の確保等の諸要素の比較衡量によることになり、極めて技術的、専門的、政策的判断を必要とする。

よって、上記方法が著しく合理性を欠くとか、他に全国的にも通用しうる簡易かつ適正な方法を採りうるといった特段の事情が存しない限り、合理的な評価方法として是認されるべきである。

本件地域においても、大字である迎田、不入斗、片又木等の大字単位で評価倍率が定められている。

2  迎田の評価倍率の合理性

(一) 売買実例が希薄な地域における評価倍率の設定

このような地域において、主観的要因により大きく左右される個々の売買実例価額を評価に過度に反映させて地域全体の評価倍率を決定することになると、かえって基本通達にいう時価から乖離する結果を招きかねない。

このため、本件付近の土地においては、売買実例を過度に反映させることを避け、大字全体の地価動向をにらみながら、周辺の大字等との評価の均衡、評価の精度に係わる安全性等に配慮し、相当程度に評価水準(売買実例価額と評価額の割合)を下げたところで評価倍率を定めたものである。このように、評価倍率は必ずしも売買実例価額のみを基準に決定されるものではなく、本件において最も重要な要素となるのは、迎田と不入斗の両地域における比較である。

(二) 評価水準の比較

右両地域における昭和六一年から平成二年までにおける評価水準(売買実例価額に対する相続税評価額の割合)は、約七ないし一七パーセントの範囲内にあり、概ね一定とみることができる。しかも、右両地域の相続税評価額は、売買実例価額を大幅に下回るものであるから、右両地域の評価倍率は適正に設定されているといえる。

(三) 売買実例価額の比較

右両地域における売買実例価額を比較すると、迎田の売買実例価額が不入斗のそれを上回っているといえるから、迎田の評価倍率が不入斗のそれを上回っていたとしても不合理ではない。

また、迎田の評価倍率は、迎田飛地の売買実例のみに基づき定められたのではないから、迎田本体に売買実例が希少であることを理由として、迎田全体の評価倍率を迎田飛地についてのみ適用すべきということにはならない。

(四) 飛地について

飛地とは、一般にある行政区画(大字)の主地域から飛び離れて他の行政区画(大字)の中に取り込まれて所在する区域をいい、地理的、経済的条件等種々の評価上の観点から本来の大字についての評価倍率を決定した要素以外の異質の要素を考慮せざるを得ず、かつ、考慮すべき要素が比較的客観的、具体的かつ容易に認定しうる場合には、飛地を囲む周囲の区域(大字)の倍率によって評価する方法がとられる。しかし、本件における迎田飛地及び不入斗飛地(別紙図面二に右のように表示した地域)はこれに当たらないことは明らかであるから、評価倍率表において評価方法を異にする本来の意味での飛地と同列に論じることはできない。

(五) 地理的条件の比較

迎田本体の周辺は、すべて山ないし畑というわけではなく、その地理的条件は、原告主張のように劣っているものではない。むしろ、大字全体として見た場合、迎田本体の方が不入斗、片又木と比較して恵まれているといえる。

(六) まとめ

以上のように、迎田と不入斗の評価倍率は、その適正判断の最重要要素である評価水準からみて適正に設定されており、売買実例価額の比較、地理的条件に照らしても合理的であるから、迎田について設定された評価倍率は合理的であるといえる。なお、種々の要素を考慮の上定められた評価倍率は、大字全体に一律に適用されるのであるから、その結果算出された個々の土地の評価額について、個別具体的な地理的ないし経済的諸条件を比較した結果においてばらつきが生じるようにみえたとしても、評価額が時価を上回るというように納税者に著しく不利益を及ぼすものでない限り、法の許容する範囲内といえる。

3  本件通知処分が憲法一四条一項、相続税法二二条に違反しない点について評価通達及び評価基準による評価は、公正な課税のために一般的に適用されているものといえるから、その評価方法によらないことが正当であると是認されうるような特別な事情が認められない限りは、右評価通達及び評価基準に規定された評価方法は、時価の評価方法として妥当性を有するといえる(東京高裁昭和五六年一月二八日判決税務訴訟資料一一六号五一頁)。右評価方法がすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平を実現することができるのであるから、右特別の事情が何ら認められない本件相続により取得した各土地は、右評価方法により評価されるべきであり、憲法一四条一項、相続税法二二条には違反しない。仮に、原告が主張するように、迎田と不入斗の評価額に約一・五倍の格差があったとしても、評価額が現実の売買実例価額を大幅に下回っている状況下では、憲法一四条一項、相続税法二二条に反することにはならない。

六  本件相続財産の土地の評価に関する原告の主張

1  評価額の格差とその不合理

本件相続により取得した各土地のうち迎田本体に属する土地の評価額は、近隣の不入斗、片又木及び豊成の評価額に比べて著しく高額である。すなわち、固定資産税評価額は、居住者等が固定資産税等を支払う基準となるものであるから、実勢価額の格差をそのまま反映させずに平準化する政策がとられているところ、昭和六三年当時、迎田と近隣の不入斗、片又木及び豊成の各地域の固定資産税評価額は、道路からの距離等が同じであればほぼ同一であった。しかし、評価倍率は、迎田の方が不入斗より田において約一・四二倍、畑において約一・五倍、山林において約一・四五倍高いため、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて求める評価額は、評価倍率の差をほぼそのまま反映し、迎田の評価額が不入斗のほぼ一・五倍となるという不合理が生じている。

2  迎田本体の評価の不合理性

(一) 飛地の存在

大字ごとに評価倍率を定めることを原則とするのが合理的であることは認めるが、それには例外があり、国税局長自身も、例えば同一大字のうちでも幹線道路沿いの場合には異なる評価倍率を適用し、飛地の場合には、大字名によらず実際に存在する地域の大字の評価倍率を適用するというように、より合理的な方法によっている。こうしてみると、大字名が同じであっても、地理的条件が異なるならば、その相違に応じた評価倍率を定めるべきである。

本件関連地域における評価倍率も大字ごとに定められているが、迎田の中には、迎田本体の外に迎田飛地が存在し、不入斗の中にも、不入斗本体の外に不入斗飛地が存在する。そして、迎田飛地は、飛地というには余りにも面積が大きく、別の字といってもよいものである。このように、迎田飛地が迎田本体と地理的条件を異にしていることは、地図上において一見しただけで明らかであるから、迎田本体と迎田飛地は同一の評価倍率によるべきではなく、例外的場合として、別個の評価倍率を適用すべきである。

(二) 売買実例の比較

ところで、迎田の中における売買実例の大部分は、迎田飛地のものであって、迎田本体のものはほとど存在しない。これに対して、不入斗においては、不入斗本体、不入斗飛地とも幹線道路に接しているためそれぞれ売買実例が存在する。そして、迎田飛地と不入斗本体、不入斗飛地を比較すると、迎田飛地の方が姉崎の街中に近いためその売買実例価額は高額になりがちである。したがって、売買実例価額から迎田本体の平均的な価額を推定する場合には、迎田飛地の実例や迎田本体の幹線道路沿いの特殊な実例は考慮に入れるべきではない。これらを除外すると、迎田本体と不入斗の売買実例価額はほぼ同額となる。しかしながら、本件においては、迎田飛地の売買実例価額が斟酌されることによって、迎田の評価倍率は、不入斗のそれよりも高く定められているのである。

(三) 地理的条件の比較

土地の売買価額に影響を及ぼす地理的条件について迎田本体と不入斗(全体)とを比較すると、両地域はほぼ同じか、不入斗の方が好条件である。迎田本体の地理的条件は、隣接地域の中では片又木に最も相似しているが、片又木は、平地であり、道路が比較的整備されていて、迎田本体よりも好条件である。

にもかかわらず、その評価倍率は、片又木が最も低く定められ、迎田はその約一・八倍と定められいる。

3  著しい不平等

(一) 相続税法二二条にいう時価として評価される額が通常取引価額より低額となれば、評価倍率がどのような倍率であってもよいといえないことは当然である。そもそも憲法一四条一項は、租税負担の平等原則を規定し、相続税法二二条にいう時価の概念が本来他の土地との比較を含むものであることからしても、評価倍率の適用による評価額は、他の土地と均衡がとれていることが法律上要請されているというべきである。したがって、税務署長の課税処分においては、通常取引価額が同じであれば評価額も同じであることが前提とされるべきであり、その処分の内容が右均衡を失している場合は、憲法一四条一項、相続税法二二条に違反することになる。

(二) 確かに、徴税費用の軽減等の目的のために、ある程度画一的な評価方法が要請されることはある。しかし、本件においては、迎田本体と片又木との地理的条件の差異よりも、迎田本体と迎田飛地の地理的条件の差異の方が格段に大きく、迎田本体と迎田飛地とは大字の名前こそ同じであるが、その実態は別個の大字と考えられるのである。したがって、飛地についてはその本体の大字の評価倍率によるのではなく、それを取り囲んでいる大字の評価倍率を適用するのが合理的であるように、当該飛地を独立の存在と評価することができ、本体の地理的条件と全く異なっている場合には、本体の大字とは別の評価倍率によるのが合理的である。

前記のとおり、国税局長は、他の地域については、評価倍率を定めるに際し必ずしも大字ごとに決めているわけではなく、その中で特定の小字を指定したり、幹線道路沿いの部分を区別して定めたりしている。にもかかわらず、本件において、被告は、関連地域の地理的条件の差等を実質的に考慮せずに、大字の名が同じであることから漫然と同様に評価することにより、迎田本体の評価額が不入斗の約一・五倍になるという著しい格差を生じさせている。本件の不平等を見直すには、迎田本体につき不入斗及び片又木の評価に準じてその評価倍率を定め、迎田飛地については従来の評価倍率を用いればよいのであるから、労力も費用もほとんど必要としない。

したがって、このような評価を前提とする本件通知処分は、憲法一四条一項、相続税法二二条に違反するというべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件通知処分の経緯等について

請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件通知処分の根拠について

1  課税価額の合計額について

(一)  相続により取得した財産の総額について

相続税法二二条は、相続によって取得した財産の価額は特別の定めのあるものを除き取得時の時価によって評価すべきものと規定している。同条にいう時価とは、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる額をいうものと解される(評価通達一項参照)。そして、被告は、先に事実摘示で引用した評価通達及び評価基準に基づいて原告が本件相続により取得した財産を評価しているが、これら評価通達及び評価基準の内容並びにその運用の実情に照らすと、これらの方法によらないことが正当であると是認されるような特別の事情が認められない限り、右の評価方法は一応妥当性を有すると解される。

(1) 土地の価額について

別表二の一ないし三の順号1ないし3、39ないし47の各土地の価額は、当事者間に争いがない。

そこで、以下においては、別表二の一ないし三の順号4ないし38、48ないし69の土地(これらはいずれも迎田本体に属する農地及び山林である。別紙図面一参照。)の評価額について検討する。

ア 本件相続により取得した各土地の評価方法

評価通達及び評価基準(土地の評価基準は、評価倍率表及び路線価図の形式で公表されている。)によると、本件相続により取得した各土地のうち評価が争われている農地及び山林は純農地及び純山林であるが、これらについては、固定資産税評価額に国税局長の定める一定の倍率(評価倍率)を乗じて算出する方法(倍率方式)によって評価するものとされている(評価通達三七項、四七項)。

被告は、別表二に示すとおり、本件相続により取得した各土地についても、右倍率方式によって評価額を定めているところ、原告は、基本的に倍率方式によって評価額を定めること、及び本件相続土地の固定資産税評価額は争わず、迎田本体に属する前記係争土地の評価倍率が正当でないと主張するものである。

イ 固定資産税評価額と評価倍率

原告は、迎田本体の土地の実勢価額は、不入斗全体とほぼ同じか、むしろ不入斗の方が高いと考えられるにもかかわらず、相続税の評価額は、迎田本体の方が近隣の不入斗、片又木及び豊成の評価額に比べて著しく高額となる不合理が生じていると主張し、その原因として、昭和六三年当時迎田本体及び不入斗の固定資産税評価額はほぼ同額であったにもかかわらず、迎田本体の評価倍率が不入斗より田において約一・四二倍、畑において約一・五倍、山林において約一・四五倍高いことを挙げている。

そこで、まず、迎田本体及び不入斗の固定資産税評価額についてみると、この点については、双方の全体の固定資産税評価額を比較する資料が証拠中にないが、弁論の全趣旨によれば、本件相続により取得した各土地に対する固定資産税評価額は別表二の一ないし四の固定資産税評価額欄記載のとおりである。その一平方メートル当たりの価額は迎田本体の畑が約四五・四円(一部三七・九円)、山林が概ね三九円から四六円の間である。また、不入斗の畑の一平方メートル当たりの価額が約四五・四円、同じく山林が三九・六円と評価されている。

したがって、迎田本体と不入斗の固定資産税評価額はほぼ近似しており、評価額の相違は主として評価倍率の違いによるものとみることができる。

ウ 評価倍率の定め

評価通達によると、評価倍率は、純農地については、田又は畑の別に、地勢、土性、水利等の状況の類似する地域ごとにその地域にある農地の売買実例価額、精通者意見価格等を基にして国税局長が定めることとされており(三七項)、純山林については、地勢、土層、林産物の搬出の便等の状況の類似する地域ごとにその地域にある山林の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長が定めることとされている(四七項)。

ところで、甲第一九号証、乙第二、第七号証の一ないし一二、第一一号証によると、右評価通達にいう「類似する地域」として、評価倍率表においては、原則として市町村内の町(丁目)又は大字ごとに倍率が定められており、市原市内の本件相続により取得した各土地が存在する地域については大字ごとの評価倍率が定められている。これは、右のような地域の単位が行政区画としてまとまった地域であり、ことに大字は、歴史的にみても道路、河川、水路、山の尾根、谷、崖、湖沼等で区画されている場合が多く、このため土地の地目ごとの利用形態は勿論のこと、地勢、土性、土層、水利、農林産物の搬出の便等の状況も比較的似通っており、土地の価額も類似していると考えられるとともに、納税者にとっても風土、慣習、行政上の地域区分等から評価上の単位として最もなじみやすく、かつ、課税行政における経済性、技術面等をも含めて総合的に判断した場合、この方法が合理性を有することによるものと考えられる。仮にこのような大字の単位の原則に広範な例外を認め、より狭い範囲の地域を単位とするとすれば、評価倍率を定めるための事務量、経費等の膨大な負担増加を招くだけでなく、評価倍率を算定する根拠となる売買実例が少なくなり、結果として評価自体の正確性を損なうおそれもあり、課税の不安定、ひいては納税者の不利益という好ましからざる事態に立ち至るおそれがあると考えられる。

したがってまた、大字単位に評価倍率を定める原則について例外を認める場合にどの程度の個別事情を考慮すべきかは、評価精度の向上と事務量及び徴税経費の抑制、売買実例の確保等の諸要素の比較衡量によることになり、技術的、専門的、政策的判断にわたるものである。

よって、大字単位に評価倍率を定める方法が著しく合理性を欠くとか、他に全国的にも通用しうる簡易かつ適正な方法を採りうるといった特段の事情が存しない限り、大字を地域の単位とする右方法は、合理的な評価方法として一応是認することができる。

エ 迎田の評価倍率について

〈1〉 甲第一九号証、乙第二号証、第七号証の一ないし一二、第一一号証及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

ⅰ 東京国税局長は、迎田、不入斗、片又木及び豊成の純農地及び純山林について、昭和六三年分の評価倍率を次のとおり定めた。

(右表の数字は、市街化調整区域のうち農業振興地域内の農用地区域以外の地域の評価倍率であり、括弧内の数字は、農業振興地域内の農用地区域内の評価倍率である。)

ⅱ 迎田の中には、係争土地が存在する迎田本体の外に迎田飛地が存在し、不入斗の中にも不入斗本体の外に不入斗飛地が存在する(別紙図面二参照)。

ⅲ 東京国税局長が定めた昭和六三年分の同国税局管内の土地の評価倍率表においては、市街化調整区域内の田、畑及び山林について、幹線道路沿いの土地(幹線道路に直接面している土地)、法令の定めにより土地、建物の処分等に一定の制限が課される区域内にある土地については例外的取扱いが定められており、飛地についても例外的取扱いがされることがあった(被告は、これらの例外的取扱いをする飛地は、ある行政区画(大字)の主地域と接続せず離れて所在する地域を広く意味するのではなく、主地域から飛び離れて他の行政区画の中に取り囲まれて所在する区域をいうものとしている。)。

しかし、市原市については、昭和六三年分の評価倍率表では飛地について特別の例外的定めは設けられていなかった(その後平成四年度に至り、市原市全体の共通の飛地について「隣接し、状況が類似する大字の評価を比準する。」と定められたほか、特定の一部の飛地について主地域(本体)とは別の倍率が定められた。)。

〈2〉 飛地について

一般に「飛地」とは、社会的用語としては、主地域(本体)と離れて他の区域内に存在するが、行政上は主地域に属する土地をいうものと解される。本件の迎田飛地も不入斗飛地も、迎田本体から離れて存在し、本体の土地より相当面積が小さいものであるから、飛地と呼んで差支えないと思われる。

これに対し、前記認定のように、被告は、評価倍率表において「飛地」につき主地域(本体)と別の取扱いをするのは、主地域から飛び離れて他の行政区画(大字)の中に取り囲まれて所在する地域をいうものであって、迎田飛地や不入斗飛地はこのような「飛地」には該当しないとし、右の「飛地」について右のような方法を採るのは、地理的、経済的条件等種々の評価上の観点から、「飛地」を囲む周囲の大字等の評価に基づくことが具体的かつ妥当な評価を得られるとの判断によるものであるとしている。

ところで、迎田飛地は、迎田本体とは直接接していないが、近接した位置にある地域であり、迎田飛地自体も相当の面積を有するから評価倍率表が想定する「飛地」には該当しないものと考えられる。

しかし、迎田飛地は、迎田本体に近接しているとはいっても、離れて存在し、一定の面積を有する一団の地域であるところ、最寄り駅である内房線姉ケ崎駅に近く、その中央を幹線道路が通り、住宅地も多いなど、迎田本体とは地理的条件において異なる面を有するのであるから、迎田本体と同一に評価するのが適正か否かはさらに検討すべきものである。

以下においては、このような迎田本体と迎田飛地の地理的経済的条件の異同をも念頭において検討を進めることとする(これに対し、不入斗については、本体と飛地とはやや離れて存在するが、本体の中央を幹線道路が通っているなどのことから、原告も本体と飛地とを別に評価する必要が乏しいとしているので、一体として考察することとする。)。

〈3〉 売買実例価額の比較

原告は、迎田本体と不入斗の売買実例価額はほぼ同額であるにもかかわらず、迎田飛地の高額な売買実例が迎田全体の売買実例として斟酌されることによって、迎田の評価倍率が不入斗のそれよりも高く定められるという不合理が生じていると主張する。

乙第八ないし第一〇、第一二号証によると、迎田と不入斗における本件相続時である昭和六三年前後の五年間(昭和六一年から平成二年まで)の売買実例価額は、別表三のとおりであると認められる(原告の主張する売買実例も右の中に含まれている。)。右売買実例のうち順号1ないし3は迎田本体、4ないし14は迎田飛地、15ないし19は不入斗(飛地)の事例である(別紙図面二参照)。

右売買実例からすると、昭和六三年の本件相続時に時点修正した価額は、迎田本体の三件の平均が一万六〇〇〇円、迎田飛地の一一件の平均が二万五一〇〇円(迎田全体の平均は二万三二〇〇円)、不入斗(飛地)の五件の平均が一万〇九〇〇円となっていて、迎田全体の平均は不入斗の平均を上回っている。また、原告の指摘するとおり、迎田飛地の方が売買実例がはるかに多いのに対し、迎田本体は少なく、しかも迎田飛地の方が相当高く売買されているが、それでも迎田本体と不入斗を比較すると迎田本体の平均価額の方が高い結果となっている。

ところで、迎田本体の売買実例は右のとおり三件にとどまり、そのうちの二件(別表三順号2、3)は幹線道路に近い位置にあることとが認められるし、原告本人は、これら三件の売買実例は、ある農地の所有者が隣の農地を買い足したとか、資材置場にするために購入した事例であって、そのため高額になったものであると供述し、甲第二一、第二二号証を合わせると、右のような事情がうかがわれなくもない。しかし、迎田本体に他の売買実例が見当たらない以上、原告本人の指摘する点も考慮に入れつつ、現存する売買実例に基づいて考察するほかはなく、そうとすると、迎田本体の売買実例平均価額が不入斗(ほとんどが飛地の実例である。)のそれを上回っているという結果は否定できない。

〈4〉 評価水準の比較

ⅰ 事実摘示において述べたように、売買実例価額に対する相続税評価額(固定資産税評価額に評価倍率を乗じたもの)の割合を評価水準と呼ぶが、評価額が時価を反映しているかどうかを検証するために、本件地域付近の評価水準を検討してみると、別表三の〈7〉欄のとおりとなる。そこにおける、迎田及び不入斗の評価水準は、約七パーセントないし一七パーセントの範囲にあり、ある程度のばらつきはあるものの概ね一定とみることができる(右の程度のばらつきは、評価倍率を地域ごとに一定のものとせざるをえないことに伴うものであって、やむをえないものと考えられる。)。

そうすると、迎田本体を含め、本件地域付近の評価倍率はほぼ一定であって、評価額はほぼ売買実例価額を反映しているということができ、評価額ひいて評価倍率も概ね適正なものということができる。

ⅱ ところで、弁論の全趣旨によると、国税局長は、評価倍率を定めるに当たり、売買実例の希薄な地域においては、売買実例を過度に反映させる(すなわち、評価額が売買実例価額に近似するように評価倍率を設定する)ことを避け、大字全体の地価動向に照らしつつ、周辺地域との評価の均衡、評価の精度に係わる安全性等に配慮し、評価水準が相当低くなるように評価倍率を設定する扱いをしていると認められるが、右は妥当な扱いであるというべきである。

そして、前記認定のとおり、迎田本体を含む本件地域付近の評価水準は約七ないし一七パーセントであって、相続税評価額が売買実例額を大幅に下回っているものであり、前記のような考慮によって評価倍率が低めに設定されていることが明らかである。

〈5〉 地理的条件の比較

原告は、迎田本体はすべて山ないし田畑であるなどとして、迎田本体の評価倍率が不入斗、片又木等周辺の大字に比べ高率となっているのは地理的条件を無視したものであり、不合理であると主張する。

甲第一六ないし第一八、第二〇、第三〇、第三一号証、乙第一三号証の一ないし四、第一四ないし第二一、第二二号証の一ないし一九、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

ⅰ 最寄り駅からの距離

最寄り駅である姉ケ崎駅からの距離についてみると、迎田飛地が最も近く、次いで迎田本体と不入斗飛地がほぼ等距離にあり、不入斗本体と片又木がさらに遠い位置関係にあると認められる(なお、姉ケ崎駅から迎田本体、不入斗本体及び片又木の一番奥までの距離を直線及び道路に沿って測定した場合、不入斗本体及び片又木の方が迎田本体よりいずれも遠い。)。

もっとも、駅に至る幹線道路の位置を加味して駅へ出る利便を考えた場合には、迎田本体全体としては不入斗飛地よりやや姉ケ崎駅から遠いとみられ、また、迎田本体と不入斗本体とを対比すると、不入斗本体はその中に広い道路が通っているが、それでも迎田本体の方が不入斗本体よりもやや駅への利便があると認められる。

ⅱ 道路状況

姉ケ崎駅に通ずる県道一四四号線(幅員三メートル以上で片道二車線の舗装道路)は、迎田飛地の中央部付近及び不入斗飛地の北東部付近を縦断し、不入斗本体の中央部付近を横断しているが、迎田本体については、南部のごく一部を通過しているにすぎない。

迎田飛地、不入斗飛地、不入斗本体及び片又木には、右県道の外にも幅員三メートル以上の道路が通っているが、迎田本体には、右県道以外は幅員三メートル以上の道路は通っていない。

迎田飛地、迎田本体、不入斗飛地、不入斗本体及び片又木のいずれも迎田本体と大差はなく、その道路状況は類似している。

ⅲ 周辺市街地との関係

迎田本体の東側にはいちはら緑園都市、西と北には青葉台、南には有秋台という団地が存在し、迎田本体はこれらの団地に囲まれる形で位置している。

他方、不入斗(本体及び飛地)もいちはら緑園都市、有秋台(さらにその奥の桜台)等の団地に接し、あるいは近接しており、これらの点では迎田本体と不入斗との間に特段の地理的、経済的条件の差があるとはみられない。

ⅳ 地勢、地目等

迎田本体は山林と田畑がほとんどで特に山林が多く、不入斗本体及び片又木もほぼ同様とみられる。これらの地域にある田は、山と山との谷間にある入り組んだ「谷田」であるが、片又木及び不入斗の方が平地の田(谷田でないもの)がやや多い。なお、迎田飛地と不入斗飛地には住宅地もあり、山林は少なく、田も谷田でない平地の田が多い。

ⅴ 地理的条件のまとめ

以上の地理的条件を総合してみると、迎田本体は迎田飛地よりは劣るが、不入斗(本体・飛地)に比べて特段劣っているということもできず、むしろ不入斗本体よりも恵まれている面もあると認められるし、片又木よりは条件がよいということができる。

オ 著しい不平等の有無

原告は、迎田本体と迎田飛地はその地理的条件の差の大きさからして別個の大字と評価すべきであり、迎田本体については不入斗及び片又木の評価倍率を適用し、迎田飛地については従来の評価倍率を適用すべきであるにもかかわらず、被告は大字の名が同じであることから漫然と同様の評価倍率を適用し、迎田地域の評価額が不入斗の約一・五倍となるという著しい格差を生じさせているから、相続税法二二条及び憲法一四条に違反すると主張する。

ところで、以上に検討したところによると、迎田本体と迎田飛地とではやや地理的条件を異にし、迎田飛地の方が売買実例価額の点でも高額であり、地理的条件の点でも勝っていると認められるのに、本件においては、大字ごとに評価倍率を定める扱いのため、迎田全体について同一の倍率が定められ、迎田本体に属する原告の相続した土地の評価額が不入斗、片又木の土地よりも相対的に高く評価される結果となっている。

しかし、先にみたように、大字ごとに評価倍率を定める点には十分な合理性があるうえ、課税行政における経済性、技術面の点からもやむをえないものというべきであり、しかも、評価倍率の定めは技術的、専門的、政策的考慮を要するので、ある程度課税行政庁の定めを尊重すべきものである。

そこで、進んで、評価倍率の一般的な定めはともかくとして、本件において迎田本体に属する土地について別個の評価をすべきかどうかについて検討する。既に検討したとおり、迎田本体と不入斗(本体・飛地)を比較した場合には、地理的条件においても迎田本体の方が不入斗よりも上回っているということができ、売買実例価額においても、迎田本体の方が高額な結果となっているのであるから、迎田本体に着目しても、評価倍率を不入斗や片又木より高く設定すること自体は適正なものである。ただ、例えば田において迎田が不入斗の一・四倍、片又木の一・八倍とされているのは、迎田本体についてみれば相対的にやや高めに設定されているということができるけれども、その差異も著しく不当と評価すべきほどのものではない。

そして、元来、相続税の課税標準としての相続により取得した財産の価額は時価を意味するものであるところ、先に評価水準の比較の項において検討したように、本件各地域の評価額が全体として売買実例価額より相当低めになるように評価倍率が設定されていることをも考慮するとき、評価倍率における右の程度のアンバランスは、これをもって評価の不適正を来すようなものとみるべきものではない。

そうとすれば、迎田について統一的な評価倍率によって評価額を定め、本件相続にこれを適用しても、著しい不平等を来すものということはできず、相続税法二二条、憲法一四条に違反するとはいえない。

カ まとめ

以上によると、別表二の一ないし三の順号4ないし38、48ないし69の各土地について被告が固定資産税評価額に昭和六三年度の評価倍率表の倍率を乗じて算出した相続財産評価は右表の平成元年一月二四日付け更正処分の欄記載の各評価額によるべきものと認められる。

(2) 家屋、現金、預貯金等、家庭用財産及びその他の財産の価額

右の各相続財産の価額については、すべて当事者間に争いがない。

(二)  控除すべき債務の総額

右の額も、当事者間に争いがない。

2  原告の納付すべき税額について

右1(一)、(二)で検討したところからすると、原告が相続により取得した財産の総額は別表二の一ないし四の合計三億〇二四五万六六九三円であり、控除すべき債務の総額は別表二の五のとおり合計一九一万三〇七〇円であるから、課税価格の合計額は、右を差し引き計算して一〇〇〇円未満を切り捨てた三億〇〇五四万三〇〇〇円となる。右課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除額を差し引いた金額について、民法九〇〇条、九〇一条及び相続税法一六条(平成四年法律第一六号による改正前のもの。)を適用して算出した原告の納付すべき税額は、被告の主張のとおり、九一八七万一〇〇〇円であると認められる。

三  本件通知処分の適法性について

以上において検討したところからすると、原告が納付すべき税額は、被告の主張のとおり、九一八七万一〇〇〇円であると認められ、本件通知処分の基となった平成元年一月二四日付け更正処分に係る原告の納付すべき税額は、九〇三七万九〇〇〇円であって、右金額の範囲内であるから、原告の再度の更正請求は更正すべき理由がないものであって、本件通知処分は適法である。

四  結論

よって、被告が原告に対し平成二年五月二九日付けでした被相続人佐久間周次に係る相続税の更正をすべき理由がない旨の通知処分(本件通知処分)の取消しを求める本件請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩井俊 裁判官 鎌田豊彦 裁判官 細矢郁)

別表一 本件通知処分の経緯

別表二の一 相続財産等の明細表

別表二の二 相続財産等の明細表

別表二の三 相続財産等の明細表

別表二の四 相続財産等の明細表

別表三 売買実例価額等比較表

別表三の付表 大字迎田の田の売買価額の時点修正率算出表

別紙図面一・二省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例